
【アルバムチョイス企画】John Lennon のアルバムの中で、丸ごと聴くべき1枚はどれだ?
今回はちょっと、イレギュラーなスタイルで!
皆さん、いかがお過ごしですか? 輪太郎です。
おそらく、世界で一番有名なグループと言えば、現代においても「ザ・ビートルズ」ではないかと思います。
そしてそのリーダーである「ジョン・レノン」氏は、最も有名なアーティストの一人でしょう。
もっとも有名であるがゆえ、正しく評価されていないアーティストとも言えるのではないでしょうか。
ニルヴァーナのカート・コバーンはヴォーカルを二重録音することに対して「そんなインチキをしたくない」と言ったところ、エンジニアが「ジョン・レノンもやっていたよ」というと、素直に従ったそうです。
オアシスのリアム・ギャラガーは、
「ジョン・レノンみたいになりたいんじゃない。ジョン・レノンになりたいんだ」
と言っております。
後進のカリスマたちがそのようなスタンスなので、あらゆるミュージシャンたちから「ジョン・レノンに影響を受けた」と言っておけば間違いない、というような、変な使われ方をしているように思います。
今や「ジョン・レノン」は完全にブランド化されてしまいました。
そういった、若干残念な昨今の状況を踏まえ、ジョン・レノンの音楽をあまり知らない若者に、ジョンの作品をプレゼンしてみたいと思います。
ジョン・レノンとポール・マッカートニーの違い
良く比べられる二人ですが、ビートルズ解散後の二人を比べる意味は、正直言ってあまりありません。
方向性が、全く違うのです。
ビートルズ時代、レノン・マッカートニーの作品群は、彼らの化学反応の賜物でした。
ご存知の通り、彼らは発表する作品について、共作であれ単独での作品であれ、名義はレノン・マッカートニーにて発表する、と決められていました。
(ですので、イエスタデイはポールの単独作であるのに、現在でもヨーコ・オノ氏に莫大な印税が払われ続けていて、ポールがよく不満を口にしています。)
ですので、たとえ単独作であっても、友でありライバルでもある相方が意識されているのは間違いありません。
解散後は、、、。
言ってみれば、もう誰も意見することの無くなってしまった、イエスマンのブレーンしか持たないワンマン社長のようなもので、「その作品はクソだ」と切り捨ててくれるパートナーを失ってしまいました。
そのお陰で、自由な作品作りは可能になりましたが、どうしても独りよがりになりがちです。
その傾向は特に、ジョンに強いです。
ポールですら後年スランプに悩み、ポールの作品を「クソ」と呼べるパートナーとして、エルヴィス・コステロと共作をしたほどです。
どんな天才であっても、裸の王様では限界があるのです。
ジョンはリヴォルバー収録のポールの曲「Here There And Everywhere」を非常に高く評価しており、半ばコンプレックスを抱いていました。
彼の遺作となる「Double Fantasy」収録の「Woman」のコード進行は、あきらかに同曲が意識されており、ポールとの相互関係は死ぬまで切れることがなかったことが伺えます。
ポールは純粋なミュージシャンですが、ジョンはどちらかというとアーティストです。
表現者、というのに近いです。
ポールは「音楽を作りたい」という衝動を今でも実行しているのに対し、ジョンは「言いたいことを言いたい」のであって、その表現手段として音楽があった、と言えます。
どちらかと言うと、ボブ・ディランに近い。
ですので、ポールの音楽的水準はずっと高いまま維持されますが、ジョンにはこれが難しい。
言いたいことがある時には、強烈なメッセージ・ソングが生まれますが、それが無い時の差が大きい。
ネガティブで内向きなのです。
作者の人物像、背景や歌詞などを全く考えず、純粋に音だけを楽しみたいのであれば、私はポールの音楽をお薦めします。
しかしジョンのソロ作品は、その精神性などを無視することは出来ず、ファンにとってはたまらなく魅力的な作品が多いのです。
また、音楽の面で言ったら、ビートルズ時代のジョンの魅力は語り尽くせませんので、ビートルズのアルバムは是非、全て通して聴いて欲しいです。
歌手としても、この上なく魅力的です。
ジョン・レノンのディスコグラフィー
それでは、ジョンの残したアルバムを見ていきます。
実は、ビートルズ解散後のソロ作品数は非常に少ないです。
また様々なツッコミが入りそうですが、ヨーコ氏との共同名義のアルバムも含めます。
1970 ジョンの魂 (John Lennon/Plastic Ono Band)
1971 イマジン (Imagine)
1972 サムタイム・イン・ニューヨークシティー (Sometime In New York City)
1973 マインド・ゲームス (Mind Games)
1974 心の壁、愛の橋 (Walls And Bridges)
1975 ロックンロール (Rock ‘n’ Roll)
1980 ダブル・ファンタジー (Double Fantasy)
1984 ミルク・アンド・ハニー (Milk And Honey)
こうして見ると、オリジナルアルバムが非常に少ないのが分かります。
生前はライブアルバムを含め、7枚。(ベスト盤は除きます)
ライブ・アルバム(ヨーコ氏共作)を除くと、6枚。
そのうちの1枚は全曲カヴァー曲。
残る5枚のアルバムのうち、最後の作品である「ダブル・ファンタジー」はヨーコ氏との共同名義であり、曲も半数ずつの提供となっており、ジョンの単独作品ではありません。
すると、ビートルズ解散後の純粋なオリジナル・アルバムは4枚ということになります。
同じ期間中、ポール・マッカートニーはソロ名義、バンド名義で11枚のアルバムを発表しています。
「Imagine」についてジョンは生前最後のインタビューで、「当時は意地になって自分の作品だと主張していたが、実際はヨーコとの共作だ。原案は完全にヨーコのものだ」と告白しています。
そう考えると、ジョンのソロ作は、その知名度からしたら恐ろしいほどに少ないと言えます。
各アルバムについて、ざっと短観
1970 ジョンの魂 (John Lennon/Plastic Ono Band)
コンセプト・アルバムと呼べるかどうか議論の余地はありますが、トータルのアルバム性で言ったら、この作品が一番だと思います。
面白い事に、ポールのソロ1作目も非常に私的なものになっています。それだけ、ビートルズからの解放感が重要だったのでしょう。
歌詞も素晴らしいものが多く、ネイティブでない我々日本人が損をしている部分です。
私の中では、ジョンと言ったらまず、このアルバムです。
1971 イマジン (Imagine)
最も有名な原題曲が収録された、ジョンの作品の中で最もセールス的に成功したアルバム。
ビートルズ時代に作られた「ジェラス・ガイ」など、人気曲も多く、ファンの中にはベストに挙げる人が多くいらっしゃると思います。
個人的には、アルバム全体を通したトータル性で言うとファーストアルバムより弱く、また、「イマジン」という曲のイメージが強すぎて、コンセプト・アルバムと呼ぶのはチョット違う印象です。
「Oh My Love」などの名曲もあり、素晴らしいアルバムではあります。
1972 サムタイム・イン・ニューヨークシティー (Sometime In New York City)
唯一の公式ライヴ・アルバム。そして、ヨーコ氏との共作です。
反戦や男女平等、アイルランド問題など、政治活動の記録として残したかったのでしょうか。
それはそれで成功していますが、音質といい、完成度は決して高くありません。
ここがポールと大きく違う部分で、音楽性よりもメッセージに重きを置いたアーティストの姿勢と言えます。
また、多くのロック・ファンにとってヨーコ氏の作品は不可解なものが多く、それゆえ避けられることが多い作品ともなっています。
ただ、ジョンが若い頃から馴染んでいたブルースを基調とした楽曲が多く、作品としての生々しさで言ったら、ファンにしてみれば「よくぞ残してくれた」と思える作品です。
1973 マインド・ゲームス (Mind Games)
表題曲を彼の代表作とするファンも多いのですが、アルバムとしての出来として、ジョン初心者にはあまりお薦めできるものではありません。
彼は「ヌートピア」という理想の架空国家を提唱しており、そういう意味ではこのアルバムは最もコンセプト性が高いものなのですが、思想というのは賛同した者には強いのですが、そうでない者を引き付ける手段として、音楽というのは難しい面も内包しています。
このアルバムは、どちらかと言うとファン向きのものと言えます。
1974 心の壁、愛の橋 (Walls And Bridges)
「イマジン」があるので驚く方もいらっしゃると思いますが、ジョンの初全米1位となった、エルトン・ジョンとのデュエット曲「Whatever Gets You Thru the Night」が収録されています。
またセカンド・シングル「#9 Dream」も、偶然ですが全米9位を記録。アルバム・セールスとして上々でした。
同曲は、まさにジョン・レノンにしか書けない、唯一無二の世界観を持った名曲です。
前作よりも馴染みやすい楽曲群で構成されており、ファンの中では非常に評価が高いアルバムです。
1975 ロックンロール (Rock ‘n’ Roll)
ジョンはビートルズ時代の「カム・トゥゲザー」について「アレはチャック・ベリーのパクりだ」と公言していました。
それを知ってか知らずか、そのパクられた原曲「ユー・キャント・キャッチ・ミー」の出版権を持っている人物から、訴訟にしないことを条件に、彼が版権を持っている曲をカヴァーしたアルバムを発表するよう要求されました。非常に賢い人ですね。。。
そのおかげで、ファンにとってはたまらないアルバムが発表されました。
これをロックンロールのアンセムとする人も多いと聞きます。また、「スタンド・バイ・ミー」を彼の代表作(?)と呼ぶ人すらいる始末です。
しかし、どうでしょう。
ジョンは優れた歌手だとは思いますが、このアルバムは、彼の魅力を出しきれているとは言えないのではないでしょうか。
カヴァーであれば、「Bad Boy」の歌唱など、ロックンローラーとしてのジョンの魅力はやはりビートルズにある、と言えます。
しかしながら、ジャケットは秀逸です。
矢沢永吉さんのバンド「キャロル」デビュー時、このアルバムはまだ発表されていませんが、まさにこのジャケットの世界観を目指したのがキャロルでした。ジョニー大倉さんの発案であったそうです。
1980 ダブル・ファンタジー (Double Fantasy)
彼は主夫となり、5年間、子育てに没頭し、音楽活動からは半ば引退状態でした。
しかし、友達の家でビートルズのビデオを見た息子のショーン君が「パパはビートルズだったの?」と聞いてきたことをきっかけに、ジョンは働く父の姿を見せることを決意し、アルバム制作に入ります。
残念ながら、アルバム発売直後に、ジョンは射殺されました。
これから「本当のジョンの音楽が始まる」という矢先の出来事です。
結局、彼が気付いたことは、「遠い反戦」ではなく、「身近な愛」でした。
マザー・テレサの「反戦運動には行きませんが、平和運動には行きます」という言葉の通り、真実に開眼したのでしょう。
意見はあるでしょうが、この「ヨーコ氏との共作」である同アルバムを、ここではジョンの作品群に加えました。
1984 ミルク・アンド・ハニー (Milk And Honey)
既に制作着手されていた次期アルバムが完成されることなく、ジョンは亡くなりましたが、その未完の作品をヨーコさんが仕上げ、世に出されたのが同アルバムです。
私は、アーティストが自身のゴーサインを出さないまま発表されたものは、あまり好印象を持ちません。
もし自分だったら、墓場を掘り起こされるようなことはされたくないからです。
ファンからしたら待望であっても、本人が不本意であるかも知れないものを引っ張りだすのは、故人に失礼な気がします。
、、、と言いながら、無限に出てくるジミヘンの音源を買いあさる私なのですが(失笑)。
ビートルズの「Real Love」と「Free As A Bird」など、最たるものだと思います。
ファンとしてはたまりませんが、もしかしたらジョンにとっては、逆の意味でたまらないかも知れません。
もし彼が生きていて、逆にポールとか他のメンバーが亡くなっていたとしたら、ジョンは絶対にこのような企画には参加しなかったと思います。というか、実現しないでしょう。
しかしながら本作は前作に続き、ヨーコ氏との共作として制作されていたので、ヨーコ氏の意思により制作が続行されたことを考えると、単にジョンの意見を無視している、とも言えない作品なのです。
完成度で言ったら「ダブル・ファンタジー」には当然ながら及ばないものの、ヨーコ氏の渾身の一作と言えます。あれ、、、ジョンのレビューにならない。。。
個人的には、好きです。どちらかと言うとヨーコ氏の作品を、ですが。
結論:私がジョン初心者にオススメするアルバムは、、、
「ダブル・ファンタジー」です。
えーーーー! という意見が多数、出そうですね。
実際、これはジョンの単独作品ではありません。
でも、ジョンが最後に行き着いた場所が、此処なんです。
「Watching The Wheels」を仕上げ終わったとき、「やっと思い通りの作品が作れた」と言ったそうです。
また、ジョンよりも誤った評価をされているのが、ヨーコ氏です。
芸術家として言うなら、ジョンは常に彼女の背中を追っていた、と言えます。
芸術家、思想家としては、ジョンより一歩も二歩も先を行っています。
ミュージシャンとしてはどうか、と言えば、ジョンと比較するのは酷ですが(それは全てのミュージシャンに言えますが)、この作品を通して、ヨーコ氏は芸術家としての本領を全開に発揮しています。
正直、インパクト、破壊力で言ったら、ジョンよりもヨーコ氏に軍配が上がります。
存在感が凄まじい。
なら、何でこのアルバムよ? という事ですが。。。
それも含め、ジョンとはそういうアーティストだからです。
ビートルズ後の彼は、ヨーコ氏とセットではじめて、ジョン・レノンなのです。
ジョンの終着点をまず見て、そこに興味があるならば遡る、という方が楽しめる気がするのです。
ジョンは聖人ではありません。
彼は盲目的に崇拝されたアイコンであって、本当のジョンは粗暴で、残酷で、利己的で、極左で、発言はその時々の思い付きで、無責任で、とても聖人とはほど遠い人物です。
ただの、剝き出しの「普通の男」です。
世界中に祭り上げられた普通の男が、苦悩の末たどり着いたのがシンプルに「身近な愛」という真実であった、という方が、彼を見る上でとても正しい姿勢だという気がしてなりません。
あまたの著名人が崇拝する「ジョン・レノン」という虚像を刷り込まれていない人たちには、そこからスタートして欲しいのです。
ああ、アンチが出そうな記事。。。
でも、ジョン本人はきっと賛同してくれると思います。
ジョンがみんなに一番聴いて欲しいアルバムは、絶対に「ダブル・ファンタジー」だと思うんです。
それでは、また別の記事でお会いしましょう!

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